良かれと思ったコスト削減が裏目に出るカラクリ

202203

タイ洪水の被害をうけて経営の立て直しのため、実務担当者としてタイに長期出張した私だが、そのときに考えさせられる出来事があった。コストを削減しようとして逆にコストが増えてしまった話をしよう。

私がタイに赴いた当時、現地で洪水後の復旧支援の陣頭指揮をとっていたのは、日本の購買部門から応援に駆けつけたX専務だった。(現地法人の社長は日本では部長クラスなので、専務クラスが来ると立場がなくてやりづらい。)

X専務は購買部門だけあって、工場のコスト管理を徹底していた。そしてこの時の洪水がきっかけとなり、内製部品と外注部品を整理しようという話になった。Tier1で比較的大型の設備を持っていたので、本来はそれに見合った部品を作らないと採算が合わないのだが、当時はそのへんが曖昧で小さな部品まで内製していたりした。

だが、洪水に遭って一度すべての生産を外注せざるを得なくなったのを機に、(洪水が引いたあと)内製したほうが外注よりもコストが安くなるものだけを引き取って生産再開しよう、という話になった。それ以外の部品については、引き続き外部の協力メーカーに外注して、採算性を改善するという作戦だ。

しかし、その作戦を実行した結果なにが起こったか。
内製と外製のコストを緻密に比較して、多くの部品を外注に残すことでコストを下げられるという計画だったのに、トータルで見ると結果的にコストが増えてしまったのだ。これは一体どういうことだろうか。

X専務は「外注で買うコスト」と「内製したときのコスト」を比較させていた。当然、原価計算すると人件費などが安い外注のほうがコストが安くなる(内製すると100円かかる部品が、外注すれば80円で済む、といった具合に)。すると、なんでもかんでも外に出せばいいという話になる。

しかし、これは数字のマジックだ。もちろん、部品の価格だけをみるなら計算上は外注した方がいいに決まっている。しかし全体の収支でみるとき、固定費のことを忘れてはならない。たとえば外注を増やすぶん、従業員を解雇して固定費を下げるというならコスト削減も成り立つ。だが、今回の作戦では外注だけを増やしていったので、固定費は変わらないのに外払いだけがどんどん増えることになる。

正しいやり方はこうだ。工場を経営しているなら、今の生産を維持するのに従業員が何人いれば適正かは分かっている。その人数で生産がやりくりできるうちは外注しないほうがいい。なぜなら、従業員の給与は固定費だからだ。

さて、その工場が生産を外注すべきかどうかの判断基準は、人が足りなくなって限界がきた時に初めて分かる。その状態で生産を維持するためには「人を増やす・設備投資する・残業させる」といった対策が必要になり、必然的にコストがあがる。このとき上昇した分のコストと、外注のコストを比較してから外注すべきかどうかを判断するべきだったのだ。

言われてみれば自明のことだが、このカラクリに気づいていた人間は社内でも僅かであった。
だが、気づいていた人間も、X専務に対して声をあげることはしなかった。。。(私含め)

結局、私はこのタイ洪水での赴任の1年後に本駐在としてタイに戻ったのだが、その後数年かけて、この外注問題の後始末を水面下ですすめることとなった。

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