前職では、自動車のプレス部品メーカーの調達部門にいた。Tier1相当だったので、部品メーカーと言っても100%内製していたわけではなく、一部の部品や金型は外注していた。私はそこで外注先の与信管理・品質チェック・納期チェック・コスト審査などを行っていた。
調達部門というと、見積もりを取るだけの楽な部署だと思う人が今でもいる。しかし、今どきの調達購買というのは外注先に相見積もりとって安い方を買って終わりではなく、もっと戦略的に行う必要がある。単に安ければいいわけではなく、そのコストが適正かどうかを見極めなければならないし、場合によってはより安くするための工夫も考えなければならない。
たとえば、ある金型を外注に出す時にA社の見積もりは100万円、B社の見積もりが200万円だったとする。当然A社を選ぶかというと、そうとは限らない。実はB社のほうが優れた材質の鉄を使っているから見積もりが高い、ということもあるからだ。高品質の鉄で作った金型のほうが耐久性にも優れ、プレスの生産効率も格段に良い。そこまで加味してトータルのコストを評価した場合、たとえ見積もりが高くてもB社のほうが良いケースがあるのだ。
さらに、より安く調達するための工夫も必要で、外注する際には次のようなことも考慮する。
開発段階
部品形状を変更することで加工難易度を下げたり、歩留まりを上げたりするなど。工程数が減ることで必要な金型の数が減ることもコストダウンとなる。あるいは金型の耐久性が上がることもコストダウン。ほかに、より安い材質を変更してコストダウンという場合もある。
調達段階
例えば、日本でまとめて生産してスケールメリットが出せるかどうかを考える(集中購買)。かといって、為替変動リスクやロジスティクスが延びることによる各種デメリットも存在する。しかも、近年話題になっているBCP(事業継続化計画)やサプライチェーンマネジメントの観点からすると、一極集中はリスクが高い。物流面でも、それまでサプライヤの便で納品させていたものを、自前のトラックを手配し各サプライヤを巡回させることでコストダウンを図ったりする(ミルクラン)。
生産段階
金型の調達の場合、金型の部品をサプライヤが自前で買うと高くつく(調達能力が低いため)。そこで、金型の部品をこちらから支給して、原価を抑えた状態で金型を作らせることでコストダウンを図る。
その他
一般的な購買担当者は、よかれと思って(自社の利益を優先して)コストを下げることを取引先に要求する。だが、それをやりすぎると、協力メーカーが疲弊して倒産・廃業していく。適切な競争環境がなくなった結果、残ったメーカーが強くなり、中長期的にみると結局高い買い物をすることになる。
私は、20年30年のスパンで永続的に安いコストで買うことを考えていたので、協力メーカー同士が適切な競争環境を維持させる事が優先だった。そのためには、日々の生産だけで手一杯(改善活動の余力がない)の町工場に、強くなってもらわなければならない。だから品質・オペレーション改善の支援を行って競争力をつけてもらうところまでがTier1購買担当者の仕事だと捉えていた。自社の利益だけでなく、取引先も含めた全生態系の利益を追求しないと、結局は自社にもツケが回ってくるからだ。